奈良県宇陀市、三重県との県境にほど近い山中に位置する室生寺。
古くから山岳修行の場であった境内には数多くの文化財が残されています。
室生寺はこんなところ
『室生寺縁起』によると、白鳳九(680)年に天武天皇の勅命により修験道の祖である役行者小角によって創建され、後に弘法大師空海により真言宗の道場の一つに定められたと伝わります。
一方、「宀一山年分度者奏状」によると、宝亀年間(770~781)に山部親王(のちの桓武天皇)の病気の平癒を祈って、光仁天皇の命を受けた興福寺の梵行僧(禁欲厳守の僧)が室生山中で延寿法を修し、山部親王の病は恢復しました。その後、桓武天皇の勅命で賢璟が室生寺を開基したと伝わります。ただし賢璟は延暦十二(793)年に入寂しているため、実際には弟子の修圓が創建したと考えられます。
(お寺発行の冊子より)
賢璟:先の梵行僧の一員とされ、鑑真から具足戒(出家した修行者が遵守すべき戒律)を受けた法相宗の高僧
興福寺と深いつながりを持ちつつも、密教の影響も多大に受けたことで独自の文化が醸成されてきた室生寺。真言宗の本山である高野山はかつて女人禁制でしたが、室生寺は女性の参詣が許されていたため「女人高野」とも呼ばれます。そして室生山の麓から中腹にかけて境内が広がる山岳寺院であり、古くから修行の場でもありました。
現在は石楠花の名所としても人気のスポットであり、例年ゴールデンウィークの頃には約3000株にも及ぶ淡いピンクの石楠花が鎧坂から五重塔までの参道脇を彩ります。
見どころ
国内最小の五重塔
木立の中に立つ丹塗りの小振りな五重塔は室生寺の象徴的な建造物であり、国宝に指定されています。石段の下から見上げた五重塔の写真をご覧になったことがあるという方も少なくないかと思います。
高さは16.1mと屋外に立つ五重塔としては日本で最も小さいものです。
ちなみに二番目に小さいのは海住山寺(京都府木津川市)の五重塔で、高さは17.7mです。
京都府木津川市、かつて恭仁京があった瓶みかの原はらを見下ろす三上山中腹に位置する海かい住じゅう山せん寺じ。人里離れた静かな山中の境内には裳階が特徴的な五重塔が聳え、二軀の十一面観音をはじめとする貴重な文化財を多数有[…]
最も容積が大きい初層であっても一辺の長さは2.5mしかなく、非常にコンパクトな塔であることが実感できます。
五重塔は1998年に近畿地方を縦断した台風の強風による倒木で西北側の庇が損壊するなど大きな被害を受けました。その後修復は約二年という早さで完了し、2000年10月に落慶法要が行われました。
修復に際して年輪年代測定法で当初材を調査したところ、延暦十三(794)年頃に伐採されたものであることが判明し、800年前後とされていた建立年代の裏付けがなされました。修復を重ねながらも、1200年以上厳しい環境の山中で風雪に耐えてきたことは驚嘆に値します。
伽藍の中心となる三棟のお堂
麓の本坊から山頂の奥之院にかけて多くのお堂が立つ室生寺ですが、その中心となるのが金堂と弥勒堂、本堂(灌頂堂)です。
それぞれのお堂には貴重な仏像が安置されていますので、ぜひじっくりとご覧ください。
鎧坂と呼ばれる石段をのぼった正面に立つのが金堂です。
室生寺の金堂は平安時代初期の金堂建築としては現存唯一のものであり、床下を長い束で支えた「懸造」が特徴的です。
金堂は梁間(側面)五間(一面に柱が6本あり、柱間が5つ)ですが、お堂の後方四間と前方一間とでその造りに違いが見られます。これは平安初期に建立された後方四間(正堂)の正面に、江戸時代になって前方一間(礼堂)を付け加えたことによるものです。
金堂の左手に位置するのが弥勒堂です。室生寺の創建に関わった修圓がかつて興福寺の別当であったときに創設した伝法院を室生寺に移したことに由来するそうです。
室生寺には瓦葺のお堂が少なく、多くのお堂が杮葺や桧皮葺となっています。
金堂と弥勒堂が立つ平坦地から少し進んだところに本堂(灌頂堂)が立ちます。
灌頂とは、阿闍梨(教師)が真言密教の修行を終えた弟子に仏位と阿闍梨の資格を認める儀式のことです。
本堂は和様を基調としつつも、側面の前方二間に桟唐戸が使われるなど要所に大仏様を取り入れた折衷様になっています。
厳しい参道が続く奥之院
室生寺の名物として、長く急な石段とその先にある奥之院が挙げられます。鎧坂から続く石段は延べ700段と奥之院までの道のりは決して平坦ではありませんが、神聖な参道を歩いてぜひ奥之院までお詣りしてみてください。
奥之院までは本堂や五重塔からは往復40分ほどかかるため、時間には余裕を持って計画を立てられることをおすすめします。
奥之院の入口にとなる「無明橋」を渡った先からさらに370段にも及ぶ石段をのぼると、ようやく奥之院に辿りつきます。
段差はそれほど高くはありませんが、踏み幅が狭く急な石段が延々と続きます。ところどころ石材が歪んでいる箇所がありますので、足元には充分ご注意ください。
こじんまりとした奥之院には御影堂と位牌堂、納経所が立っています。
宝物館に安置される数多くの貴重な仏像
室生寺は国宝に指定されている仏像を三軀、重要文化財に指定されている仏像を実に十七軀も有します。国宝に指定された仏像のうち釈迦如来立像は金堂に、十一面観音と釈迦如来坐像は宝物殿に安置されています。
文化財保護のため2019年に新たに建設された宝物殿では、それぞれのお堂から移坐された仏像や宝物を拝観することができます。入山料とは別に拝観料400円が必要となりますが、明るい照明の下で間近に仏像を鑑賞することができるためお詣りの際はぜひ入館してみてください。
(諸仏の姿はこちら)
まとめ
五重塔や金堂、本堂といった国宝に指定されたお堂や神聖な雰囲気の奥之院、数多くの貴重な平安古仏など見どころが尽きない室生寺。
公共交通機関でお越しの場合は、「室生口大野駅」から奈良交通バス「室生龍穴神社」行きで「室生寺」下車、徒歩すぐです。ただし、バスの本数は平日が8本、土日祝日は9本と少ないため事前に計画を立ててお詣りされることをおすすめします。近くには駐車場が多数ありますので、お車でお詣りの方も安心してお詣りいただけます。
次の記事では、それぞれのお堂と仏像について詳しくご紹介します。
本記事では、室生寺の境内や所蔵する文化財ついて詳しくご紹介します!基本情報や見どころをまとめた前回の記事はこちら。[sitecard subtitle=前の記事 url=https://www.masktomoe[…]
また、室生寺から東へ1kmほどのところに位置する室生龍穴神社をあわせてお詣りされるのもおすすめです。
奈良県宇陀市、室生寺のさらに奥に佇む室生むろう龍りゅう穴けつ神じん社じゃ。山深くの境内とご神体の「吉祥龍穴」は神秘的な雰囲気に包まれています。室生龍穴神社はこんなところ創建に関しては明らかではありません[…]
基本情報
- 正式名称
宀一山室生寺 - 所在地
奈良県宇陀市室生78 - 宗派
真言宗室生寺派 - アクセス
近鉄大阪線「室生口大野駅」から奈良交通バス44系統「室生龍穴神社」行きで「室生寺」下車、徒歩すぐ - 駐車場
台数 料金 室生寺駐車場 約100台 500円 おもや室生寺山門前第1駐車場 合計約50台 600円 おもや室生寺山門前第2駐車場 600円 室生寺前駐車場(さかや) 約60台 500円 - 拝観時間
境内 宝物館 4月~11月 8:30~17:00 9:00~16:30 12月~3月 9:00~16:00 9:30~15:30 - 入山料
区分 一般 団体(30人以上) 大人(中学生以上) 600円(400円) 500円 小学生 400円(300円) 300円 ※カッコ内は障がい者割引料金(本人および介護者1名が割引)
※宝物殿は別途400円(一律) - 御朱印
可/受付・本堂・奥之院にて - 所要時間
約45分/奥之院まで往復する場合は約90分
参考
お寺発行の冊子
室生寺ホームページ 最終アクセス2024年10月14日