【室生寺(奈良県宇陀市)】② 鎧坂から奥之院まで歩く

本記事では、室生寺の建造物や仏像ついて詳しく紹介します!

基本情報や見どころをまとめた前回の記事はこちら。

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奈良県宇陀市、三重県との県境にほど近い山中に位置する室生寺。古くから山岳修行の場であった室生寺には、数多くの文化財が残されています。室生寺はこんなところ『室生寺縁起』によると、白鳳九(680)年[…]

太鼓橋を渡って境内へ

室生川に架かる朱塗りの欄干が印象的な太鼓橋が室生寺の入り口です。

太鼓橋を渡ったところにあるのは本坊。

表門からしばらく進むと入山受付に至ります。受付を入ると納経所・トイレ・宝物殿があり、宝物殿については後ほど紹介します。

室生寺では三カ所でご朱印を戴くことができますが、各納経所では御朱印が異なるのでご注意ください。また、これより上にトイレはありませんのでこちらについてもご注意ください。

元禄期に焼失して以来、昭和四十(1965)年に再建された立派な佇まいの仁王門。再建当時は桧皮葺でしたが、近年銅板葺に改修されました。

仁王門をくぐってすぐ左手には梵字のヴァンの形をした「ヴァン字池」があり、奥上にある弁財天の祠がかつて祀られていました。

金堂や弥勒堂へは「鎧坂」と呼ばれる石段を登って向かいます。編み上げた鎧の様に見えることから鎧坂という名がついたそう。

室生寺は石楠花の名所であり、4月中旬~5月中旬には鎧坂から五重塔にかけての参道脇を石楠花が彩ります。

懸造の金堂と平安仏

鎧坂を登り切ると正面に金堂、左手に弥勒堂、右手に大黒天神社が立ちます。

方五間、杮葺寄棟造の金堂は平安時代初期の金堂建築としては現存唯一のものであり、床下の長い束で支えた「懸造」が特徴的。

平安初期に建立された後方四間(正堂)の正面に前方一間(礼堂)の庇をすがるにして外陣として、廻り縁と高欄を配します。前方の礼堂がなかった江戸時代以前は、堂外から仏像が拝めたそうです。

軒下はふたのきしげたるだいひじで支える簡素な造りとなっています。

内陣には本尊釈迦如来を中心に、向かって右手に薬師如来、左手に文殊菩薩、その前方に十二神将のうち子神・丑神・午神・申神・戌神・亥神の六軀が安置されています。また、本尊の背後には帝釈天曼荼羅が描かれています。

  • 釈迦如来立像
    木造(榧)彩色・截金、一木造、像高234.8cm、平安時代初期、国宝
  • 薬師如来立像
    木造(檜)彩色、一木造、像高164cm、平安時代初期
  • 文殊菩薩立像
    木造(桂)彩色、一木造、像高205.3cm、平安時代初期
  • 十二神将立像(子神・丑神・午神・申神・戌神・亥神)
    木造(檜)彩色・玉眼、寄木造、像高95~104cm、鎌倉時代
    (以上重要文化財)

本尊釈迦如来は右手はいんを、左手は与願印を結びます。非常に堂々とした佇まいで、黒漆の体躯に衣文が美しい掠れた朱色の衣を纏います。肩から足元に向かって流れる衣文は漣波式という技法で、室生寺様と呼ばれます。七軀の坐像など華麗な色絵が描かれた総高335cmの大きな板光背も重厚な存在感を放ちます。

金堂には十二神将のうち子神・丑神・午神・申神・戌神・亥神が安置され、その他の六軀は宝物殿に移されました。室生寺の仏像は平安時代に造立されたものが多いですが、十二神将は鎌倉時代の作で玉眼が嵌入されています。右手の人差し指を立てる戌神や頬杖をついて思案する未神など各像は非常にユニークな姿態をしているので、是非じっくりと拝んでみてください。

弥勒堂と室生寺最古の仏像

鎌倉時代に建立された弥勒堂は、方三間、杮葺、入母屋造の建物で、当初南向きでしたが室町時代に東向きに改められました。

当初部分は方一間の内陣のみで、須弥壇上の厨子内には弥勒菩薩がお祀りされています。昭和二十八(1953)年に実施された修理の際に須弥壇の下と天井から約3万7千基のもみとう(高さ約9cmの宝篋印塔)が発見されました。

  • 弥勒菩薩立像
    木造(榧)素地、一木造、像高94.4cm、奈良時代末期~平安初期、重要文化財

弥勒菩薩は本体と蓮台の上半分から両手先や天衣までを一材から彫りだし、腰を僅かに右に捻り、左手に蓮華を持ち、右手を下に垂らします。細身な体躯の一方で頭部はふくよかな造形となっており、穏やかな表情をしています。克明に彫りだされた見事なようらく(装身具)が特徴的。本像は室生寺最古の仏像であり、室生寺を創建したけんきょうの弟子しゅえんが伝法院とともにもたらしたとも考えられています。

金堂から見下ろした大黒天神社と拝殿。拝殿の左側にある岩には軍荼利明王が彫られています。

金堂横の石段を登ったところにある五輪塔は、桂昌院(五代将軍綱吉の生母)のお墓です。

折衷様の国宝本堂と穏やかな如意輪観音

鎌倉時代に建立された本堂(灌頂堂)は、方五間、桧皮葺、入母屋造の建物で、軒の反りが非常に深い点が特徴的。

軒下はふたのきしげたるだるふたさきのきりん(組物の背部の弧状部分)で支える構造で、中備えとしてけんづかが使われています。

正面五間がしとみで、両側面は前方二間がさんから、三~五間目が板壁になっています。

堂内は前方二間が外陣、後方三間が内陣で両陣が扉とめくられんまどで区切られています。内陣最奥部の須弥壇(重要文化財)上に本尊を収める厨子(重要文化財)が安置されています。

  • 如意輪観音菩薩像
    木造(榧)彩色、一木造、像高78.7cm、平安時代、重要文化財

六臂の片膝を立てる半跏思惟像で、如意宝珠・輪宝・蓮・数珠を持ち、細身の体躯に彫りが浅く抑揚の控えめな衣を纏います。個人的には、慈愛に満ちた穏やかな表情が非常に魅力的に感じます。本像は観心寺(大阪府河内長野市)・かんのう寺(兵庫県西宮市)の如意輪観音とともに、日本三如意輪の一つと称されています。『室生村史』によると、元は鐘楼のそばにあったしっいんに本尊として安置されていたそう。

本堂の西南には、二基の五輪塔と宝篋印塔がひっそりと佇みます。基壇上に立つ右側の五輪塔(重要文化財)は左右手前に小さな五輪塔があり、多気の国司の墓とも、北畠親房の墓とも伝えられます。

木立の中に立つ小振りな五重塔

木立の中に立つ三重塔は、八百年頃に建立されました。五層三間桧皮葺ですが、創建当初は板葺だったようです。

高さ16.1mとその小ささが最大の特徴で、また筋交いが使われた日本初の建築であり、床に板が張ってある塔としては最古の例だそうです。

塔は基壇上に立ち、初層は縁を設けず中央間を板戸、両脇を白壁とします。内部には密教の金剛界五仏がお祀りされています。

軒下はふたのきしげたるだるさきで支える構造で、二層~五層には高欄附きの廻り縁が配されています。

相輪部は九輪の上に八弁の受花に乗る水瓶を戴きますが、水瓶を乗せる例は他になく非常に珍しい造りとなっています。

塔の裏手にある建物は修圓の廟です。

奥之院へと続く険しい参道と珍しい造りの御影堂

五重塔奥の階段をさらに奥へ進み一旦下ると、奥之院の入口へ至ります。こちらの門は拝観時間より早く締まるのでご注意ください。

奥之院の入り口にあたる「無明橋」。ここから先370段の石段を登ることでようやく奥之院に辿り着きます。

段差はそれほどないものの、踏み幅が狭く急な石段が延々と続きます。ところどころ石材が歪んでいる箇所がありますので、足元には充分ご注意ください。

一直線に伸びる石段を暫く登ると、懸造の位牌堂が見えてきます。ここまで来ると奥之院まではあと少し。

真下から見上げると、崖からせり出した位牌堂は迫力満点です。ただし、杉林の中に立つので眺望はよくありません。

奥之院はこじんまりとしており、御影堂・位牌堂・納経所があるのみです。

鎌倉時代後期に建立された堂(重要文化財)は、各地にある大師堂の中でも最古の堂の一つです。内部には弘法大師像が安置され、毎月21日に開帳されます。

方三間の宝形造で、板葺二段屋根の頂に石造の露盤と宝珠が据えられています。

ほかにも廻り縁の周囲に配された庇も特徴的で、小さいけれど見どころのある建物です。

御影堂背後の小高い岩場上には七重石塔が聳えます。

数多くの貴重な宝物を収容する宝物殿

文化財保護のため2019年に新たに建設された宝物殿では、理想的な照明環境の下間近で仏像を鑑賞することが可能です。

  • 十一面観音菩薩立像
    木造(榧)彩色、一木造、像高196.2cm、平安時代初期
  • 釈迦如来坐像
    木造(榧)彩色、一木造、像高106.3cm、平安時代初期
    (以上国宝)
  • 地蔵菩薩立像
    木造(檜)彩色、一木造、像高160cm、平安時代初期
  • 十二神将立像(寅神、卯神、辰神、巳神、未神、酉神)
    木造(檜)彩色・玉眼、寄木造、像高95~104cm、鎌倉時代
    (以上重要文化財)

十一面観音菩薩はもと金堂にお祀りされていた像で、左手に水瓶を持ち、右手は与願印を結びます。切れ長の目と朱色の唇が特徴的な上品で穏やかな顔立ちと流麗ですらっとした佇まいからは女性的な美しさを感じます。胸飾と瓔珞は良好な状態で残りますが、光背は天保九(1838)年に新造されたものです。

釈迦如来はもと弥勒堂に安置されていた像で、右手はいんを、左手は与願印を結び、けっします。こちらは前提的にどっしりとした像容で、十一面観音菩薩のような装飾は身に着けていませんが複雑に刻まれた漣波式衣紋が表現上のよいアクセントになっています。螺髪のない頭部や指の間にある水掻きのようなまんもうそうも特徴的です。曼網相とは、全ての人を余すことなく救う(掬う)ことを表したものです。

まとめ

木立の中に立つ五重塔や金堂は非常に風情があり、境内は雰囲気が醸成されています。国宝に指定されている三棟の建造物や三軀の仏像はもちろんのこと、そのほか境内に点在する文化財も必見です。少し時間と労力を要しますが、金堂や五重塔だけでなく奥之院までお詣りされることをおすすめします!

室生寺から室生川に沿って1kmほど進んだところにある室生龍穴神社や、室生口大野駅近くに位置する大野寺も併せてお詣りください。

参考
お寺発行の冊子
室生寺ホームページ 最終アクセス2023年1月2日