【東明寺(奈良県大和郡山市)】矢田丘陵にひっそりと佇む舎人親王ゆかりの古刹

奈良県大和郡山市、矢田丘陵山中に位置する東明寺。

森の中にひっそりと佇む本堂には、古様で力強い一木造の薬師如来がお祀りされています。

東明寺はこんなところ

寺伝によると、東明寺は『日本書紀』の撰者として名高い舎人親王の開基といわれます。

舎人親王は、母持統天皇の眼病の平癒を祈って諸寺諸社に参拝を続けていましたが、あるとき夢の中で「霊山に登って霊井の水をすくい、その水で母の目を洗うように」という翁に姿を変えたしらひげ明神のお告げを授かります。さっそく霊山に登って、翁から与えられた金鍋で霊水をすくい、その霊水で持統天皇の両眼を洗ったところ、たちまち眼病は平癒しました。

その後、舎人親王は持統天皇の眼病が平癒した謝意を示すため、東明寺を建立しました。山号のぞうざんは授かった金鍋を基礎として埋蔵したことに、寺号は持統天皇が眼を洗った際に「東の方が明るく見えた」と仰ったことにそれぞれ由来するそうです。
(パンフレット・公式HPより)

金魚の町として全国的に有名な大和郡山市は、羽柴秀吉の弟羽柴秀長の築いた大和郡山城を中心とする城下町であり、奈良市のすぐ南に位置します。東明寺は市西部を南北に連なる矢田丘陵の山中に所在し、麓には長閑な田園風景が広がります。現在は本堂と本坊、山門を残すのみのこじんまりとしたお寺ですが、かつては矢田村の惣鎮守にいますたま神社の神役を勤めるなど、地域で重要な役割を果たしてきました。

通常本堂の拝観には事前予約が必要ですが、6月1日~15日の特別公開期間中であれば予約不要で拝観することが可能です。

舎人親王と持統天皇の関係について

縁起のなかで「母持統天皇の眼病の平癒を祈って~」と記しましたが、「あれ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。というのも持統天皇の皇子は草壁皇子ただ一人で、舎人親王の母が持統天皇というのは一見矛盾しているからです。なので一度この辺りの系図を確認しておきましょう。

出典:筆者作成

この系図から、舎人親王の実母は新田部皇女だということがわかります。そして新田部皇女と持統天皇はともに天智天皇の皇女であり母は違うものの二人は姉妹、つまり持統天皇は舎人親王の叔母ということになります。一方で、持統天皇は舎人親王の父天武天皇の皇妃であることから義理の母ともなるわけです。したがって、舎人親王にとって持統天皇は叔母であり義母でもあるため、舎人親王の母が持統天皇というのは誤りではないことになります。

境内を散策する

境内は以下の通りです。

出典:筆者作成

新緑に包まれた静謐な境内

境内へは、本坊前の石段を歩いて向かいます。少し傷んではいるものの本坊と土塀は非常に趣がある佇まいです。

お寺にとっては綺麗な方がいいのでしょうが、崩れかけているからこそ醸成される雰囲気があって個人的にはとても好みでした。

境内隅には簡素ながらも存在感のある山門が立ち、山門越しに眺める境内は実に雰囲気があります。

筆者がお詣りした日は雲一つない快晴で、青々と茂る木々の葉がよく映えていました。

森の中にある東明寺ですが、草を刈るなどとても綺麗に手入れされています。

本堂へ続く石段の脇には小さな放生池と「白龍弁財天」と刻まれた石碑があります。

古様で力強い一木造の薬師瑠璃光如来

本堂はその装飾に山門との類似点が見られ同時代に作られたものと考えられますが、その特徴から判断するとどちらも江戸時代のものでしょうか。薬師如来を納める極彩色の厨子が江戸幕府五代将軍徳川綱吉の母桂昌院によって寄進されたことからも、江戸期の再建と考えることは妥当なところでしょう。

本堂は、桁行五間・梁間四間、銅板葺入母屋造の建物で、前方三間は蔀戸、その両脇を連子窓とし、両側面は一間目と三間目を蔀戸、二間目を引き戸、四間目を塗壁とします。

前方には一間のこうはい(本堂前面の張り出した部分)が附され、組物は出三斗、中備えとして前面の各間には蟇股、両側面には間斗束があしらわれています。

内部は内外陣を区切った密教式となっていて、内陣中央のしゅだん上に本尊が納められた厨子と十二神将が安置され、その左右に毘沙門天と吉祥天がお祀りされています。

  • 薬師如来坐像(薬師瑠璃光如来)
    木造(桜)古色、一木造、像高94cm、平安時代
  • 毘沙門天立像
    木造彩色、一木造、像高160.5cm、平安時代
  • 吉祥天立像
    木造彩色、一木造、像高91.4cm、平安時代
    (以上重要文化財)
  • 十二神将像
    木造彩色・玉眼、鎌倉時代
  • 役行者坐像
    木造彩色、奈良時代
  • 雷様のヘソ
    拳小サイズの鉱石のようなもので、かつての住職が境内で昼寝していた雷様からとったものと伝わります
お寺発行のパンフレット

薬師如来は比較的珍しい桜の一木造であり、製作年代は平安前期~藤原時代と文献によってまちまちですが、大小の襞が交互に繰り返される翻波式衣文などに古様が見られます。張り出した肩や幅広の胸板、引き締まった腹部など力強い造形が特徴的であり、非常に堂々たる像容です。やや角ばった頬に主張の強い顎の造形からはややエキゾチックな雰囲気も感じ取れ、あまり他では見られない容姿の仏さまではないしょうか。現在は赤外線写真でしか確認することはできませんが、板光背には唐草文様が描かれています。

毘沙門天は左手に戟、右手に宝塔を持ち、左足を上げて正面して立ちます。現在は独尊でお祀りされていますが、かつては四天王の一軀としてお祀りされていたようです。比較的穏やかな面相や細身の体躯、あまり動勢を見せない像容は平安時代中期~後期の天部象の特徴をよく表します。

落ち着いた表情と衣の意匠が魅力的な吉祥天は毘沙門天の妃であり、柔和な雰囲気を漂わせます。左手に宝珠を持ち、右手は与願印を結び、全体的に丸みを帯びた量感が豊かな像容です。

本堂の横には、鎌倉時代に建立された石造七重塔と東明寺の鎮守八坂神社が鎮座します。

まとめ

人里離れた山中に位置し、隠れた古刹といった様相の東明寺。少し不便なところにありますが、その分非日常を味わえる空間になっているように思います。本堂内の拝観には予約が必要ですので、ご希望の方は事前にお電話でご予約のうえお詣りください。

公共交通機関でお越しの場合は、「近鉄郡山駅」または「JR大和小泉駅」から両駅を結ぶバスで「横山口」下車、お寺まで徒歩30分ほどです。お車でお越しの場合は、お寺までの道が非常に狭く、待避所以外ではすれ違いが困難であるため充分ご注意ください。お寺までは長い坂道を登ることになりますので、脚力に不安のある方は自家用車でのご参拝をおすすめします。

矢田丘陵は遊歩道が整備されるなど人気のハイキングコースであり、ハイキングを楽しみながら近隣の矢田寺や松尾寺を併せてお詣りされるのもおすすめです!

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このような道が数百メートル続きます

基本情報

  • 正式名称
    ぞうざん東明寺
  • 所在地
    奈良県大和郡山市矢田町3506
  • 宗派
    高野山真言宗
  • 文化財指定
    重要文化財(木造薬師如来坐像、木造毘沙門天立像、木造吉祥天立像)
  • アクセス
    1. 近鉄橿原線「郡山駅」から奈良交通71・72系統「大和小泉駅東口行き」で「横山口」下車、1.8km/徒歩約30分
    2. JR関西本線「大和小泉駅」から奈良交通71・72系統「近鉄郡山行き」で「横山口」下車、1.8km/徒歩約30分
  • 駐車場
    境内前にあり/7~8台/無料
  • 拝観時間
    要予約(6月1日~15日は予約不要(9時~17時))
  • 拝観料
    500円
  • 御朱印
    可/要予約(予約不要期間中は本堂にて)
  • 所要時間
    約20分
駐車場

参考
お寺発行のパンフレット
東明寺公式ホームページ 最終アクセス 2022年6月20日