兵庫県神戸市、六甲山北側の山地にひっそりと佇む石峯寺。
室町建築の様式を今に伝える薬師堂と三重塔が現存する修験の寺です。
石峯寺はこんなところ
寺伝によると、法道上人によって白雉二(651)年に創建されました。孝徳天皇の勅願寺として栄え、中世には七十余のお堂が東西二里・南北一里に点在し、康安元(1362)年には播磨最古の木版刷りの法華経を刊行して全国に配布したといわれています。
応仁の乱や嘉吉の乱、羽柴秀吉の三木攻めによって伽藍の大部分を焼失しましたが、江戸時代には明石城主より七十石、徳川家光以降十三代に亘って七十石のご朱印寺領を授かり、諸堂が再興されました。
(現地案内板より)
石峯寺は神戸市の最北端となる淡河町に所在し、港町である神戸市街地とは打って変わってのどかな里山が広がります。お寺の周辺は森に囲まれていますが、森を抜けた先に広がる田畑風景と石峯寺の佇まいは趣深いものがあります。
境内には室町時代に建立された薬師堂や三重塔が立ち、ご本尊として延命地蔵菩薩がお祀りされています。
境内を散策する
長閑な田園地帯に佇む伽藍
仁王門は境内から少し離れた森の中にひっそりと佇みますが、往時は現境内からこのあたりまで諸堂が立ち並んでいたのでしょう。
仁王門から境内までは参道が真っすぐ伸びており、参道沿いには焼杉板が印象的な塔頭が軒を連ねます。
ちなみに焼杉板が建材として利用される理由としては、杉板は比較的入手しやすいこと、表面を焼き焦がすことで炭化層が形成されて耐久性が大きく向上することが挙げられます。
(仁王門側から見て)手前に立つのが十輪院であり、見事な池泉回遊式庭園を有します。
庭園の中央に築山を据え、その左手に枯滝、池中には亀島を置き、土塀を低く作ることで背後の西岡山を借景とします。
作庭時期に纏わる記録は残されていませんが、石組の様式などから江戸時代前期の作庭と考えられています。
(現地案内板より)
両塔頭とも門構えがよく似ていますが、こちらは竹林寺です。十輪院の表門が鯱を戴くのに対し、竹林寺の表門には鯱がありません。
竹林寺が石峯寺の納経所となっており、御朱印はこちらで頂けます。
伽藍は参道より一段高い平坦地に築かれており、鼓楼と鐘楼が参拝客を出迎えます。
境内の中心に本堂が南面して立ち、その東側に薬師堂と三重塔、西側に庫裏を配します。
本堂へつづく石畳の途中に反りを伴う石材が敷かれていますが、こちらは下乗橋でしょうか。
本堂は江戸時代に再建され、ご本尊の延命地蔵菩薩がお祀りされています。
寺伝によると、開祖である法道上人が旅の途中にこの地に立ち寄り、その徳の高さゆえに上人を天竺から追ってきた龍に地蔵菩薩を授かり、お堂を建立したそうです。
(現地案内板より)
桁行五間・梁間六間、本瓦葺、宝形造のお堂であり、前面は中央三間を桟唐戸、その両脇二間を連子窓とし、両側面は前方から一・四間目を連子窓(四間目は横連子)、二・三・五間目を舞良戸、七間目を板壁とします。
堂内は前方三間が外陣、後方三間が内陣で両陣が格子戸と彫刻欄間で区切られる密教式であり、ご本尊は内陣の宮殿内に安置されています。
その様式から室町時代後期の建立と見られる薬師堂は、かつては屋根の上部が茅葺で、下部が瓦葺でしたが、昭和41年~43年の解体修理の際に本瓦葺へと改められました。
内陣中央に位置する厨子内には平安時代後期に造立された薬師如来座像がお祀りされています。
方五間、本瓦葺、入母屋造のお堂であり、前面は中央三間を桟唐戸、両脇間を連子窓とし、両側面は二間目と三間目を連子窓、それ以外を塗壁とします。
軒裏は地垂木が角形の一軒繁垂木となっており、組物は出三斗、中備えとして撥束があしらわれています。
側面には縁側が設けられていないため、まるで土間敷きのお堂のような様相です。
山中に聳える堂々たる三重塔
塔は本堂東側の一段高い地点に聳え、形式は三間三重塔婆、高さは24.41mと室町期の三重塔の中では大型の部類に属します。
昭和二十九年の解体修理の折に発見された棟札によって修理歴が明らかとなり、現在は銅板葺ですが、かつては檜皮葺や杮葺の時期もあったようです。
神戸市内には室町時代に建立された三重塔が三基現存しており、残りの二基は如意寺(同市西区)と六條八幡宮(同市北区)の三重塔です。
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初層は中央間を桟唐戸、両脇を連子窓とし、廻り縁を配します。内部には四天柱・来迎柱があり、須弥壇上には金剛界大日如来が安置されています。
軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木となっており、組物は尾垂木三手先、各間に中備えとして間斗束があしらわれています。
各層の隅木には風鐸が掛かり、ハート型のくりぬきは猪目と呼ばれます。
二層目と三層目には高欄附きの廻り縁が配され、組物と中備えは初層と同様の尾垂木三手先と間斗束です。
塔を高く見せるため、相輪は上に行くほど小さく造られています。
まとめ
室町建築の特徴をよくあらわす薬師堂と三重塔を有する石峯寺。境内だけではなく、周辺の雰囲気ものどかで気持ちがよい場所であり、リフレッシュにも最適なお寺です。
公共交通機関でお越しの場合は、「岡場駅」から八多淡河バス「淡河」行き、または「三木営業所」行きで「野瀬」下車、徒歩30分ほどです。ただし、バスは平日6本、土曜4本、休日は運行がないため、お車でのお詣りをおすすめします。
基本情報
- 正式名称
岩嶺山石峯寺 - 所在地
兵庫県神戸市北区淡河町110−1 - 宗派
高野山真言宗 - 指定文化財
重要文化財(薬師堂、三重塔)
県指定文化財(五輪塔) - アクセス
神戸電鉄「岡場駅」より八多淡河バス「淡河」行き、または「三木営業所」行きで「野瀬」下車、徒歩約30分 - 駐車場
境内の横にあり/約10台/無料 - 拝観時間
境内自由 - 拝観料
無料 - 御朱印
可/竹林寺にて - 所要時間
約20分
参考
現地案内板