京都府木津川市、鹿背山の東麓に位置する西明寺。
本堂には永承二(1047)年の銘を有する細身の薬師如来がお祀りされています。
西明寺はこんなところ
寛政六(1794 )年に記された『西明寺縁起』によると、大宝元(701)年に行基によって創建された後に、承和元(834)年に弘法大師空海が入り、以降真言宗に属したと伝わります。元は東へ三町ほど離れたところにあったようですが、元禄年間(1688年~1704年)の木津川氾濫の影響を受けて享保三(1718年)年に現在地へと移ったそうです。
木津川の支流である赤田川と鹿背山に挟まれた小さな集落の高台に位置し、境内には本堂と庫裏のほかに二棟の小さなお堂が立ち、そのほかお地蔵さまや五輪塔が鎮座します。
通常本堂内の拝観はできませんが、木津川市が主催する春秋の文化財特別公開期間に限って拝観できることがあります。当該期間中に必ず拝観できるわけではありませんので、拝観を希望される方は木津川市観光協会のホームページで公開の有無を事前にご確認ください。
古様を留める平安中期作の薬師如来
西明寺は細い路地に面した小さな石段を登った高台にあるため、うっかり見過ごしてしまいそうです。
本堂と庫裏、小さなお堂が立つコンパクトな境内。
素朴な佇まいの本堂にはご本尊以外にも小さな仏像がたくさんお祀りされています。ご本尊を納める厨子とは少し離れたところからの拝観となりますが、堂内は明るく、細部までよく確認することができました。
- 薬師如来坐像
木造(欅)彩色、割矧造、像高86.4cm、永承二(1047)年、重要文化財
像内の墨書から永承二(1047)年の作であることが明らかになっており、平安時代中期の基準となる貴重な作例です。この時代は天喜元(1053)年に平等院鳳凰堂の阿弥陀如来が造立されるなど優美な定朝様が確立された時期ですが、本像はその流れを汲まず、瞼の抑揚が強い両眼やしっかりと形作られた鼻や唇、深く刻まれた翻波式衣文はそれ以前の様式を表します。
頭上には肉髷を高く結い、右手は施無畏印を結び、左手に薬壺を持ち、蓮華座に結跏趺坐します。坐像特有のどっしりとした重厚感はなく、全体的にすらりとした造形であり、とりわけほっそりとした首が印象的です。光背は後補ですが、台座は当初のものであり、面相部や胸部の白い彩色や衣の赤い彩色が残るなど状態のよさも特筆すべき点でしょう。
詳細は不明ですが、境内の北側には二棟の小さなお堂が立ちます。
本堂の北側には笠塔婆と五輪塔、層塔の残闕が鎮座します。本堂の死角に立っているため、見落とさないようにご注意ください。
笠塔婆の塔身上部には舟形光背を背負った像高20cmほどの小さな坐像が彫られています。
まとめ
永承二(1047)年の銘を持ち、古様をあらわす薬師如来がお祀りされる西明寺。春秋に実施される木津川市の文化財特別公開期間中の数日を除いて本堂内の拝観はできませんので、拝観をご希望の方は木津川市観光協会のホームページで公開の有無をご確認のうえ、特別公開期間中にお詣りください。
最寄り駅の「加茂駅」からは徒歩25分ほどと少し距離があります。境内前に参拝者用の駐車場がありますが、お寺の前の路地は大変細く、場所によってはすれ違いが困難であるため、充分にご注意ください。
基本情報
- 正式名称
華頂山西明寺 - 所在地
京都府木津川市加茂町大野27 - 宗派
真言宗五智教団 - 文化財指定
重要文化財(木造薬師如来坐像)
府指定文化財(曳覆曼荼羅版木) - アクセス
JR関西本線「加茂駅」から約1.7km/徒歩約25分 - 駐車場
境内前にあり/約5台/無料 - 拝観時間
木津川市の特別公開時のみ拝観可能 - 拝観料
500円 - 御朱印
無し - 所要時間
約15分
参考
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館