【海住山寺(京都府木津川市)】山中に聳える裳階がついた特徴的な国宝五重塔

京都府木津川市、かつて恭仁京があったみかのはらを見下ろす三上山中腹に位置するかいじゅうせん

人里離れた静かな山中の境内には裳階のついた特徴的な五重塔が聳え、二軀の十一面観音をはじめとする貴重な文化財を多数有します。

海住山寺はこんなところ

聖武天皇が大仏造立の平安を祈って、天平七(735)年に良弁僧正に命じて建立させた観音寺が海住山寺の前身であると伝わります。しかし、保延三(1173)年の大火によって伽藍を悉く失ってしまいます。その後、承元二(1208)年に笠置寺に籠居していた解脱上人貞慶が当地に移り住み、海住山寺として旧寺を再興します。後を継いだ覚真は、貞慶の釈迦信仰を受けて五重塔を建立し、貞慶の一周忌に仏舎利を塔内に納めました。
(お寺発行の冊子より)

貞慶:幼くして興福寺に入り、覚憲に師事して研学につとめ、維摩会・景勝会の講師を歴任した南都仏教界随一の学僧

覚真:もと後鳥羽院の院司藤原長房で、貞慶のもとで出家した

遙拝所からの眺望

れいへいの集落から急峻な山道を登った三上山中腹の平坦地に所在し、境内には国宝の五重塔のほかに本堂・文殊堂(重要文化財)・本坊が立ち並びます。また数多くの文化財を保有し、毎年4月末~5月初旬と10月末~11月末には文化財特別公開が実施され、10月末から11月にかけて約一週間五重塔の初層が開扉されます。

境内を散策する

急峻な山道を登って境内へ

麓の集落を抜けると、海住山寺へ続く急峻な坂道に至ります。ここから海住山寺までは800mほどですが、徒歩の方には少々大変な道のりです。

500mほど坂道を登ると山門が見えてきます。

鯱と朱色が目を引く切妻造の山門をくぐるといよいよ境内へ…とはいきません。この山門から境内までは残り300mほど、あと一息です。

山門の左脇には町石と小さな石仏が並んでいました。

最後に現れる急な階段を登るといよいよ境内です。

車でここまで登ってこられるので、足腰に不安のある方もご心配なく。

二番目に小さく、四番目に古い五重塔

それでは山門をくぐって境内へ進みましょう。

鐘楼と山門と紅葉

山門をくぐると正面に本堂が見え、その南に五重塔、北前方に文殊堂、文殊堂の背後に本坊がそれぞれ配されています。

文化財特別公開期間中は山門左手の茶所で拝観料を納め、時計回りに五重塔→本堂→文殊堂→本坊の順に拝観します。

室生寺五重塔に次いで二番目に小さい海住山寺の五重塔は、建保二(1214)年に建立されました。五層三間本瓦葺で、高さは17.7mです。

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海住山寺の五重塔の構造上の特徴として、初層に附された銅板葺の裳階と初層の天井上から立てられた心柱が挙げられます。裳階は創建後ほどなくして付け加えられ、その後撤去されたものの昭和に実施された修理に際して復元されました。

初層は中央間を板唐戸、両脇をれんまどとし、高欄のない廻り縁が配されています。内部には四天柱が立ち、柱間には四方とも扉が設けられた厨子状の造りとなっており、かつてはここに仏舎利が安置されていました。

蝉があしらわれた落とし金具にも注目です。

軒裏は地垂木、飛燕垂木がともに角形のふたのきしげたるとなっており、組物はだるふたさき、二層目から五層目には高欄附きの廻り縁が配されています。

また、二層目の中央間にのみ中備えとしてけんづかが使われています。

二軀の十一面観音菩薩

本堂は明治十七(1884)年の再建ですが、この時期に再建されたお寺の建造物は珍しいのではないでしょうか。

内陣中央の厨子内に本尊が収められ、その左右に「補陀洛山極楽図」と「十一面観音来迎図」が懸けられています。また、文化財特別公開期間中は奥院本尊の十一面観音や四天王を拝観することが可能です。

  • 十一面観音菩薩立像(本尊)
    木造(カヤ)彩色、一木造、像高167.9cm、平安時代(十世紀)
  • 十一面観音菩薩立像(奥院本尊)
    木造(白檀)素地、一木造、像高45.5cm、平安時代(九世紀)
  • 四天王立像
    木造(檜)彩色・玉眼、割矧造、像高35.8~38.3cm、鎌倉時代(十三世紀)
    (以上重要文化財)
  • 薬師如来坐像
    木造漆箔、像高86.6cm、平安時代
  • 不動明王立像
    木造彩色・截金、割矧造、像高97.6cm、平安時代(十二世紀)
  • 不動明王坐像
    木造古色、割矧造、像高32.5cm、鎌倉時代(十二世紀)
  • 六牙像
    木造(檜)彩色、寄木造、像高54.6cm・全長110.6cm、鎌倉時代

    ※奥院本尊の十一面観音菩薩と四天王は通常奈良国立博物館に寄託されています

本尊十一面観音菩薩は左手に水瓶を持ち、中指と薬指を軽く折り曲げた右手を下へと垂らし、僅かに前傾姿勢をとります。大きめの頭部や頭部や張り出した肩、身に纏う霊気は重厚な印象を与えますが、その一方で鼻筋や唇の造型などには柔らかで女性的な特徴もみられます。十世紀の作とされますが、衣の表現やれんにくかえりばなのみからなる台座など天平以前の像と通じる点も認められます。

奈良国立博物館発行の絵葉書

奥院本尊の十一面観音菩薩は解脱上人貞慶の念持仏と伝わり、左手に水瓶を持ち、右手は与願印を結びます。柔らかでありながら抑揚に富んだ体躯と腰を少し左に捻り、腹部を前方に突き出した流れるような動きの表現が非常に魅力的です。着衣の特徴としては、脛辺りの翻波式衣紋や肩からたすき掛けしたじょうはくが左胸前で結び目を作る点、足首が見える短めの裳裾などが挙げられます。

奈良国立博物館発行の絵葉書

四天王像は、持国・増長・広目・多聞天の順に身体色を緑・赤・白・青とする大仏殿様四天王(鎌倉再建期の東大寺大仏殿に安置された四天王)で、彩色が非常に良好な状態で残ります。像の彩色と五重塔内の装飾文様の共通性から、当初は五重塔に安置されていた可能性が指摘されています。

優美な造りの文殊堂

現在は文殊堂ですが、元は解脱房貞慶十三回忌に向けて建てられた経蔵にあたると考えられています。経蔵には文殊菩薩が本尊として祀られることが多く、経蔵の機能を失った後に本尊をそのままに文殊堂になったようです。

文殊堂は桁行三間・梁間二間、銅板葺、寄棟造の建物で、正面中央間を板扉、その両脇間を連子窓とし、背面中央に板戸を備えるほかは塗壁となっています。

軒下は一軒繫垂木をひらみつで支え、組物間にあしらわれた蟇股が目を引きます。

内部には本尊文殊菩薩のほかに役行者像と地蔵菩薩がお祀りされており、文化財特別公開期間中のみ開扉され拝観することが可能です。

  • 文殊菩薩騎獅像
    木造漆箔、像高29.0cm・総高約85cm、平安時代(十二世紀)
  • 役行者椅像 及前鬼・後鬼像
    木造(松)彩色・玉眼(役行者・前鬼)、一木造、像高(役行者像)83.8cm・(前鬼像)37.4cm・(後鬼像)40.2cm、元徳二(1330)年、院延作
  • 地蔵菩薩坐像
    木造(檜)彩色・截金、寄木造、像高42.7cm、鎌倉時代(十三世紀)

美しい本坊庭園

本坊内には、文化財特別公開期間中と11月の土日祝のみ立ち入ることが可能です。

本坊では扁額や銅鐘、襖絵などを鑑賞することができますが、最大の見どころは美しい庭園です。

背後の山を借景にした本坊庭園。少し時季が早かったため紅葉はまだ色づき始めでしたが、11月中旬~下旬には見事な紅葉が楽しめそうです。

お帰りは表門から。こちらも立派な佇まいです。

まとめ

五重塔や文殊堂などの建造物や二軀の十一面観音菩薩をはじめとする仏像など数多くの文化財を有する海住山寺。人里離れた風光明媚な境内では、ゆったりとした時間を過ごすことができます。秘仏開帳と五重塔開扉が実施される10月下旬~11月上旬にお詣りされるのがお勧めです。

公共交通機関でお越しの場合は、「加茂駅」から奈良交通バス「和束町小杉」行きで「岡崎」下車、徒歩30分ほどです(木津川市コミュニティバス奥畑線を利用することも可能ですが、本数が少なく土日祝日は運休です)。前述の通り急坂を登ることになるため、脚力に不安のある方や荒天時などは自家用車もしくは加茂駅からタクシーの御利用をご検討ください。お車でお越しの方は、細い急坂を登ることになるため、充分ご注意ください。

境内社

基本情報

  • 正式名称
    補陀落山海住山寺
  • 所在地
    京都府木津川市加茂町例幣海住山境外20
  • 宗派
    真言宗智山派
  • アクセス
    1. JR関西本線「加茂駅」から奈良交通バス「和束町小杉」行きで「岡崎」下車、徒歩約30分
    2. JR関西本線「加茂駅」から木津川市コミュニティバス「奥畑線」で「海住山寺口」下車、約徒歩25分
      (土日祝日運休、平日も本数が少ないためご注意ください)
  • 駐車場
    約15台/無料
  • 拝観時間
    9時~16時30分
  • 拝観料
    種別拝観料備考
    本堂拝観料500円入山料を含む
    文化財特別公開期間中800円入山料を含む
    ハイキング・写真撮影・散策等100円文化財特別公開期間中は300円
  • 御朱印
    可/本堂にて
  • 所要時間
    約30分
駐車場

参考
お寺発行のパンフレット・冊子
京都南山城古寺の会. 2014.『京都南山城の仏たち 古寺巡礼』
奈良国立博物館. 2018.『なら仏像館 名品図録』奈良国立博物館
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館
海住山寺ホームページ 最終アクセス2024年6月17日