京都府京田辺市と大阪府枚方市を結ぶ普賢寺谷の入口、のどかな田園地帯に佇む大御堂観音寺。
本堂には天平彫刻の傑作である十一面観音がお祀りされています。
観音寺はこんなところ
観音寺の前身となる普賢寺は天武天皇の勅願により義淵僧正が開基し、次いで聖武天皇の勅願により良弁僧正とその高弟実忠が伽藍を整備、十一面観音を本尊として安置したと伝わります。最盛期には法相・三論・華厳の三宗を兼学し、五重塔をはじめとした諸堂十三・僧房二十余りを数え、その所領は河内交野にまで及ぶなど、「筒城の大寺」と称されたそうです。 藤原氏の庇護下におかれ、たびたびの火災にもその都度再興されましたが、永享九(1437)年の火災により堂宇のほとんどが失われて以降は寺勢が衰退しました。
実忠は東大寺二月堂の修二会(お水取り)を始めた人物ですが、現在でも観音寺周辺の竹林から切り出した真竹をお水取りで使われる籠松明用に送り出す「竹送り」が行われています。
京田辺市の西部、同志社大学京田辺キャンパス近くの田園地帯に位置し、最盛期には広大な境内を誇った観音寺ですが、現在は本堂と庫裏、鐘楼、鎮守の地祇神社を残すのみとなっています。本堂に安置されているご本尊の十一面観音は奈良時代に造立され、かの有名な聖林寺(奈良県桜井市)の十一面観音と並び称されるほどの秀作です。
天平様式の見事な十一面観音
境内には本堂と庫裏、地祇神社が立ち、道路を挟んだ反対側に鐘楼と駐車場が位置します。
お寺の周囲にはのどかな田園風景が広がりますが、往時はこの辺りも境内の一部で諸堂や僧房が立ち並んでいたと思われます。
境内に入ってすぐ左手にある庫裏で拝観のお願いをすると、ご住職が本堂を開扉してくださいます。
木々の合間から本堂と石燈籠が顔を覗かせ、堂内に安置されるご本尊の姿を想像すると自然と期待感が高まります。
1953年に再建された本堂は、本瓦葺、入母屋造で装飾の少ない簡素なお堂となっています。ご本尊の十一面観音は内陣中央に位置する厨子内にお祀りされており、厨子のすぐ近くまで寄ってじっくりと拝観することが可能です。
- 十一面観音立像
乾漆・漆箔、木心乾漆造、像高172.7cm、奈良時代、国宝
木を心にして木屎漆という漆と木粉の練り物で形を作る木心乾漆造の特性を存分に活かして、肉身の微妙な起伏や衣の写実的な表現を実現したご本尊の十一面観音。同時期に造立された聖林寺の十一面観音とたびたび比較され、全体の像容から条帛の掛け方、裙の折り返しの形状にいたるまで非常によく似た特徴を示します。一方で、観音寺像の方が聖林寺像より表情が穏やかで親しみやすく、全体的に精悍で引き締まった造形だといえるでしょう。その来歴について詳しいことは明らかになっていませんが、その出来栄えの見事さや当寺の近隣にかつて東大寺の玉井荘が存在したことから、造東大寺司の手による造立と考えられています。
度重なる修理によって姿を変えていた部分もありましたが、昭和期の修理により現状の姿へと復元されました。頭上面のうち七面、右耳朶、右手小指を除く両手の指、天衣や持物などは後補です。
本堂内には子ども向けに般若心経を面白くわかりやすい絵にした絵心経が架けられていました。
最後に境内西側の高台に鎮座する地祇神社にお詣りします。
現在は地祇神社と称しますが、明治時代初期までは地主神社と呼ばれていたようです。
本殿は覆屋の中にあり、御祭神として大国主命・大山祇命・活気長足比売命がお祀りされています。
また、覆屋の石段には「天文十辛丑(1541)年卯月吉日大西備前守」と刻まれており、大西氏は惣氏神の朱智神社や惣氏寺の普賢寺を中心に結束した周辺の地侍たちの指導的な立場にあったようです。
まとめ
国宝に指定された十一面観音は全国に八軀存在し、そのうちの一軀がお祀りされるのが大御堂観音寺。お寺周辺の田畑には菜の花が植えられ、見頃を迎えると黄色い絨毯のような見事な光景を楽しむこともできます。
最寄り駅の「三山木駅」からは徒歩30分ほどと少し距離があるため、バスのご利用がおすすめです。
近くには実際に千の手を持つ真数千手観音をお祀りする寿宝寺があります。
京都府京田辺市に位置する寿じゅ宝ほう寺じには12世紀に造立された千手観音がお祀りされています。本記事では寿宝寺にくわえて、千手観音がかつてお祀りされていたと考えられる佐さ牙が神じん社じゃについてもご紹介します。[…]
基本情報
- 正式名称
観音寺 - 所在地
京都府京田辺市普賢寺下大門13 - 宗派
真言宗智山派 - アクセス
- 近鉄奈良線またはJR学研都市線「三山木駅」から奈良交通バス90系統「水取」行きまたは91系統「高船」行きで「普賢寺」下車、徒歩約5分
※バスの本数が少ないのでご注意ください - 近鉄奈良線またはJR学研都市線「三山木駅」から奈良交通バス100系統「同志社大学デイヴィス記念館」行きで終点「同志社大学デイヴィス記念館」下車、徒歩約10分
- 近鉄奈良線またはJR学研都市線「三山木駅」から奈良交通バス90系統「水取」行きまたは91系統「高船」行きで「普賢寺」下車、徒歩約5分
- 駐車場
境内前にあり/約10台/無料 - 拝観時間
9時~17時 - 拝観料
400円 - 御朱印
可/拝観受付後本堂にて - 所要時間
約15分
参考
南山城古寺の会. 2014. 『古寺巡礼 京都 南山城の仏たち』 東京美術
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館