京都府木津川市、奈良市との境にほど近い山間部に位置する浄瑠璃寺。
平安期のものとしては唯一の現存例である九体阿弥陀如来がお祀りされています。
浄瑠璃寺はこんなところ
「浄瑠璃寺流記事」によると、僧義明が永承二(1047)年に開基したと伝わります。当初のご本尊は現在三重塔に安置されている薬師如来でしたが、後に新たに造立された九体阿弥陀如来へとご本尊が移り変わりました。信憑性は高くないものの、聖武天皇の勅願により行基が開基した説(興福寺官務牒疏)や多田満仲が開基した説(雍州府志)も存在します。
創建当初のご本尊は薬師如来であったため、その浄土である浄瑠璃世界が寺号「浄瑠璃寺」の由来とされています。
(お寺発行のパンフレット・冊子より)
浄瑠璃寺はゆったりとした雰囲気と点在する石仏が魅力的な当尾の里に所在し、美しい浄土庭園と九体阿弥陀如来が有名です。薬師如来・吉祥天女像・大日如来は秘仏となっており、1月8日~10日の3日間に限り三軀まとめて拝観することが可能です。
境内を散策する
境内は以下の通りです。
特徴的な伽藍配置と優美な庭園
表門へと続く参道の脇には馬酔木や梅が立ち並びます。
拝観料は阿弥陀堂で納めるため、表門付近に受付はなく境内へは自由に立ち入ることが可能です。
浄瑠璃寺の伽藍は池を隔てて東側に阿弥陀堂(本堂)を、西側に三重塔を配します。
平等院鳳凰堂などにも見られる阿弥陀如来を東面にお祀りし、その前に池を置く伽藍配置は、平安時代の中頃から京都を中心に流行しました。
庭園は興福寺の僧であった伊豆僧正恵信によって久安六(1150)年に造成され、昭和と平成に実施された整備によって往時の美しい姿を取り戻しました。
池の周囲には二基の石燈籠をはじめとするいくつかの石造物が点在します。
九体阿弥陀仏と阿弥陀堂
嘉承二(1107)年に再建された阿弥陀堂(国宝)は、かつては桧皮葺でしたが、江戸時代初期に現在のような本瓦葺へと改められました。
阿弥陀堂は桁行十一間・梁間四間と非常に横に長い寄棟造のお堂であり、両端一間は連子窓、それ以外の九間は九体の阿弥陀如来とそれぞれ対となる板扉とします。
前方には一間の向拝が附され、虹梁には鰐口が掛かります。
軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木となっており、四隅に舟肘木が組まれるのみで、組物や中備えを使わない簡素な造りが特徴的です。
九体阿弥陀如来は須弥壇上に横一列にお祀りされ、中尊の向かって右側に地蔵菩薩が、左側に吉祥天女像を収める厨子が安置されています。また、須弥壇の向かって右側に不動三尊像が、左側に持国天と増長天がお祀りされています。
九体阿弥陀如来はいずれも蓮華座に安座し、丈六の中尊が来迎印を結び、半丈六の脇仏は定印を結びます。かつては九軀の前に仏像や供花が描かれた絵佛具が供えられていました。
- 阿弥陀如来坐像
木造(檜)漆箔、寄木造、像高(中尊)221cm・(脇仏)138cm~143.3cm、藤原時代、国宝
中尊は、頭部・胴体部ともに大きく丸みがあり、特に丸顔が印象的です。はっきりと開いた目からはあまり感情が読み取れず、引き寄せられるような感覚を覚えました。螺髪がよく残り、台座も当初のものです。千軀の阿弥陀仏の化仏と四軀の飛天を配した千仏光背は後補ですが、飛天は当初のものだそうです。そして一見似通った脇仏は、よく見るとそれぞれ差異があることがわかるかと思います。
- 四天王立像
木造漆箔・彩色・截金、寄木造、 像高167cm~169.7cm、藤原時代、国宝
四天王像は全体の均整がとれ、かつ細部の表現も洗練された素晴らしい像容です。造形にはそれほど動きがなく、力強さと余裕を感じる堂々たる佇まいをしています。全身に施された截金と「浄瑠璃寺文様」と呼ばれる瀟洒な彩色がよく残り、足下の邪鬼のユニークな表情もまた魅力的です。
持国天・増長天が阿弥陀堂内に安置され、多聞天が京都国立博物館に、広目天が東京国立博物館にそれぞれ寄託されています。
- 吉祥天女立像
木造(檜)彩色・截金、割矧造、像高90cm、鎌倉時代、重要文化財
吉祥天女は、左手に宝珠を持ち、右手は与願印を結び、蓮華座に立ちます。厨子入りの秘仏であるため鮮やかな彩色が全身に残り、とりわけ衣装の彩色は優美なものです。また非常に複雑かつ繊細な衣装の造型も目を引きます。
阿弥陀堂には、ほかにも下記の仏像が安置されています。
- 子安地蔵菩薩立像
木造(檜)彩色、寄木造、像高157.6cm、藤原時代 - 不動明王立像 附矜羯羅童子・制多迦童子
木造(檜)彩色・截金・玉眼、寄木造、像高(不動明王像)99.5cm・(二童子像)約45cm、鎌倉時代
(以上重要文化財)
鮮やかな三重塔と薬師如来
朱の彩色と桧皮葺の屋根が美しい三重塔(国宝)は、治承二(1178)年に京都一条大宮から移築されたものです。
三層三間で高さは16.08m、初層に四天柱と心柱を設けない点が特徴的です。
初層の中央に薬師如来が安置され、扉には釈迦八相、壁面には十六羅漢図などが描かれています。
初層は中央間を板唐戸、両脇を連子窓とし、地面との間には水はけを良くし、基礎を保護することを目的とした亀腹が設けられています。
軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木となっており、組物は尾垂木三手先です。
初層と二層目の中央間にのみ中備えとして間斗束があしらわれています。
- 薬師如来坐像
木造(檜)彩色・漆箔、割矧造、像高85.7cm、藤原時代、重要文化財
開創当初のご本尊であった薬師如来は、左手に薬壺を持ち、右手は施無畏印を結び、蓮華座に安座します。頭部・胴体部の漆箔と衣装の朱の彩色は後補ですが、全体的に引き締まった造形や目元を始めとする顔の表現などに定朝様以前の意匠を感じ取ることができます。
近年注目を集める大日如来
浄瑠璃寺の仏像というと九体阿弥陀如来や四天王像、吉祥天といった面々が有名ではありますが、近年注目を集めている仏像が灌頂堂にお祀りされている大日如来です。
- 大日如来坐像
木造(檜)素地・玉眼、割矧造、像高60.5cm、鎌倉時代、県指定文化財
胸の前で智拳印を結ぶ金剛界の大日如来で、運慶作として有名な円城寺(奈良市)の大日如来とそっくりです。本像の方が丸みがあり、円成寺像の方がよりシャープな造形になっています。
後補の厚い泥下地に覆われて当初の像容を著しく損なっていましたが、住友財団の助成により解体修理が実施され往時の凛々しい姿を取り戻しました。
灌頂堂には、ほかにも下記の仏像が安置されています。
- 弁財天坐像
木造彩色、像高不明、鎌倉時代
『浄瑠璃寺流記事』によると永仁四(1296)年に吉野の天川から勧請された伝わり、かつては中島の祠に祀られていました - 役行者像
木造彩色・玉眼、像高不明、室町時代 - 義明上人像
木造彩色・玉眼、寄木造、像高不明、江戸時代
その他の文化財
ここまで紹介した以外にも、浄瑠璃寺は以下の文化財を所蔵します。
- 延命地蔵菩薩立像(東京国立博物館寄託)
木造彩色・截金、像高97cm、藤原時代 - 浄瑠璃寺流記事
南北朝時代
(以上重要文化財) - 地蔵菩薩立像(地蔵堂安置)
木造彩色、像高不明、室町時代
和歌山の護国山華厳寺(現在は廃寺)に伝来した像
- 馬頭観音立像(奈良国立博物館寄託)
木造彩色・截金、像高106.7cm、良賢・増全・観慶作、任治二年(1241)、重要文化財
四面八臂で三眼を表す忿怒相の馬頭観音は全体的に彩色がよく残り、大きさ以上の存在感を放ちます。双身毘沙門天像及び五九軀ほどの馬頭観音小像、さらに本像とほぼ同じ大きさの馬頭観音像の破損した断片が像内に納入されています。
双身毘沙門天とは二体の毘沙門天が背中を合わせて立つ像のことで、像高6.9cmで漆箔と彩色がよく残り、目を見開いたユニークな表情をしています。
まとめ
九体阿弥陀如来や吉祥天女像が有名ですが、ほかにも数多くの貴重な文化財を有する浄瑠璃寺。浄土庭園や境内の雰囲気も素晴らしく、是非お詣りして頂きたいお寺です。
公共交通機関でお越しの場合は、「JR加茂駅」からコミュニティバス「当尾線」で「浄瑠璃寺前」下車、徒歩すぐです。お車でお越しの場合は、お寺周辺の道路が細いため充分ご注意ください。
石仏が点在する道を歩いて、近くの岩船寺を併せてお詣りされるのもお勧めです!
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おまけ
浄瑠璃寺の境内と参道にはたくさんの猫がいて参拝客を癒してくれます。また猫の方から寄ってくることはありませんので、苦手な方も問題なく参拝することができます。
こちらは参道にいた猫たち。
そしてこちらはお寺で暮らす2匹の猫(参道にいた猫は浄瑠璃寺の猫ではないそうです)。
基本情報
- 正式名称
小田原山浄瑠璃寺 - 所在地
京都府木津川市加茂町西小札場40 - 宗派
真言律宗 - アクセス
JR関西本線「加茂駅」からコミュニティバス「当尾線」で「浄瑠璃寺前」下車、徒歩すぐ
(バスは8時台から15時台まで1日8本) - 駐車場
境内前にあり/30台/普通車300円・二輪車200円 - 拝観時間
開門時間 本堂拝観受付 3月~11月 9時~17時 16時30分まで 12月~2月 10時~16時 15時30分まで - 拝観料
400円(中学生以上)/障害・療育手帳等提示で200円
灌頂堂拝観は別途300円 - 秘仏開帳日
仏像 日時 薬師如来像 毎月8日
彼岸の中日
1月1日~3日・9日・10日吉祥天女像 1月1日~15日
3月21日~5月20日
10月1日~11月30日大日如来像 1月8日~10日 - 御朱印
可/阿弥陀堂受付にて - 所要時間
約30分
参考
お寺発行のパンフレット・冊子
京都南山城古寺の会. 2014.『京都南山城の仏たち 古寺巡礼』
奈良国立博物館. 2018.『なら仏像館 名品図録』奈良国立博物館
奈良国立博物館. 2020.『毘沙門天ー北方鎮護のカミー 展覧会図録』奈良国立博物館
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館
東京国立博物館. 2023.『特別展 京都・南山城の仏像 展覧会図録』東京国立博物館