【般若寺(奈良県奈良市)】コスモスが咲き誇る文殊菩薩の寺

奈良 般若寺 コスモス
奈良 般若寺 楼門
奈良 般若寺 十三重石塔

奈良県奈良市、近鉄奈良駅より北側に広がる通称「きたまち」のはずれに位置するはんにゃ

コスモスや紫陽花が彩るお寺には、楼門や本尊文殊菩薩、白鳳時代作の阿弥陀如来といった貴重な文化財が残されています。

般若寺はこんなところ

般若寺は飛鳥時代にかん法師によって開かれ、その寺名は聖武天皇が平城京の鬼門を護るため『大般若経』を基壇に納め、卒塔婆を建立したことに由来します。平安時代には学僧が集う寺として栄えましたが、治承四(1280)年の平重衡による南都焼き討ちにより伽藍は灰燼に帰しました。

鎌倉時代に叡尊によって七堂伽藍が整備されるなど再興され、金堂には丈六の文殊菩薩がお祀りされました。その後は室町・戦国時代の兵火、江戸期の復興、明治の廃仏毀釈など目まぐるしく変化する時世を経て現在に至ります。

慧灌:飛鳥時代に高句麗王より来日した僧で、日本における三論宗の祖。

叡尊:真言律宗を興し、西大寺を再興した鎌倉時代の僧。

奈良 般若寺 コスモス

般若寺は奈良と南山城との境となる奈良山を越える奈良坂に位置し、境内には鎌倉時代に建立された楼門、一切経蔵、十三重石塔が立ち並びます。現在ではコスモスのお寺として有名で、コスモスが花開く9月下旬から10月下旬にかけては多くの参拝客で賑わいます。

十三重石塔内から発見された白鳳時代作の阿弥陀如来は秘仏で、例年コスモスの時期である10月に開扉されます。

本記事では、コスモスが満開の11月上旬にお詣りした際の写真を交えて般若寺を紹介します。

境内を散策する

コスモスに埋め尽くされた境内

奈良 般若寺 コスモス
奈良 般若寺 コスモス

満開の時期に訪れると、境内全域が色とりどりのコスモスで埋め尽くされた見事な光景が楽しめます。

奈良 般若寺 コスモス
奈良 般若寺 コスモス

本堂前にはコスモスのグラスキューブも飾りつけられ、たくさんの参拝客が思い思いにカメラを向けていました。

奈良 般若寺 十三重石塔

コスモス畑の中央には般若寺の象徴的存在である十三重石宝塔(重要文化財)が高々と聳えます。

初代宝塔は聖武天皇による創建と伝わりますが、現在の宝塔はりょうが勧請し、宋の石工ぎょうまつぎょうきちの手によって建長五(1253)年頃に再建されました。

良慧:九条兼実の子で東大寺別当を務めた僧

奈良 般若寺 十三重石塔

高さ14.2mの堂々たる佇まいであり、初層には薬師、釈迦、阿弥陀、弥勒の顕教四方仏が掘られています。

昭和39年には解体修理が実施され、その際には塔内から多数の納入宝物が発見されました。

奈良 般若寺 十三重石塔

宝塔の横に安置されているのは室町時代の地震で崩落した初代相輪で、現在宝塔の上に載る相輪は三代目です。

奈良 般若寺 経蔵

境内東端に立つのは、元版一切経を納める経蔵(重要文化財)です。

内部は三方に経棚が設けられ、本尊として椿井仏師尊弘作、旧超昇寺脇仏の十一面観音がお祀りされています。

奈良 般若寺 経蔵

経蔵は桁行三間・梁間二間、本瓦葺切妻造の建物で、前方中央間を板扉、その両脇を連子窓とし、ほかは塗壁とします。

本尊文殊菩薩と白鳳秘仏阿弥陀如来

奈良 般若寺 本堂

妙寂院高任・妙光院高栄の勧請によって寛文七(1667)年に再建された本堂(県指定文化財)は、前方一間の外陣を吹き放しとする古様な形式を示します。

奈良 般若寺 本堂

本堂は桁行五間・梁間四間、本瓦葺入母屋造の建物で、前方はすべて蔀戸とし、側面は前方一間が引き戸、後方二間を塗壁とします。

奈良 般若寺 本堂

前方には一間の向拝が附され、組物は出三斗、中備えとして間斗束があしらわれています。

堂内中央の厨子内に本尊文殊菩薩がお祀りされ、その両脇には不動明王や弘法大師、四天王が安置されています。

  • 文殊菩薩騎獅像
    木造(榧)素地、一木造、像高45cm、元享四(1324)年、康俊・康成作、重要文化財

文殊菩薩は後醍醐天皇の御願成就のため、文観上人が発願し、康俊・康正、施主藤原兼光らによって元享四(1324)年に造立されました。かつては経蔵の秘仏本尊でしたが、鎌倉時代に造立された丈六の文殊菩薩が室町時代の戦災で失われたことにより、江戸時代に本堂が再建された際に本尊として移されました。

衣に截金が施され、一部に彩色がなされている以外は素地仕上げの檀像風の仏像で、右手に宝剣、左手に蓮華を持ち、蓮華座に結跏趺坐し、堂々たる体躯の獅子に騎乗します。引き締まった表情ながらどちらかと言えば童顔をしており、頭上に結われたはっけい(頭上に8つの髷を結う)が可愛らしい仏さまです。

奈良 般若寺 白鳳秘仏

十三重石宝塔から発見された納入品は現在宝蔵に安置され、秋季の一定期間のみ公開されます。

奈良 般若寺 白鳳秘仏

宝蔵内に展示される多数の納入品のうち、今回は銅造阿弥陀如来とその胎内仏を紹介します。

  • 阿弥陀如来立像
    金銅造、像高40.9cm、白鳳時代
  • 地蔵菩薩立像
    木造素地・截金、像高8.2cm、平安時代
  • 大日如来坐像
    木造(檜)素地、像高2.6cm、平安時代
  • 十一面観世音菩薩立像
    金銅造、像高11.8cm、平安時代
    (すべて重要文化財)

五重目軸石から発見された木箱に納められていた阿弥陀如来。箱書きには「閻浮檀金ノ阿弥陀如来」とあり、聖武天皇が平城京の鬼門鎮護を祈願して奉納した霊像とされます。

頭部と手足が大きく、全体的に童子のような像容は白鳳仏の特徴をよくあらわします。微笑みを称えた可愛らしい表情、長い眉に切れ長の目、筋の通った鼻が穏やかな顔立ちをしており、衣文と台座に施された複連点紋と束帯にあしらわれた九曜文といった精緻かつ丁寧な意匠も必見です。

また、台座部からは紙に包まれた三尊仏が発見されました。

国内最古!国宝楼門

奈良 般若寺 楼門

奈良と京都を結ぶ京街道に面して立つ楼門は、十三重石宝塔と並んでアイコニックな建造物です。

鎌倉時代に再興された伽藍の回廊西門として文永四(1267)年に建立され、正門であった南大門と回廊が兵火によって失われる中で、楼門のみが残されました。

奈良 般若寺 楼門

楼門遺構としては国内最古の作例で、和様を基調としつつも大仏様の意匠が取り入れられています。

下層は一間、上層は桁行三間・梁間二間、本瓦葺の入母屋造であり、軽快に反りあがった軒先の反りが印象的。

奈良 般若寺 楼門

軒下は地垂木、飛燕垂木がともに角形のふたのきしげたるとなっており、組物はふたさき、各間に中備えとして間斗束があしらわれています。

お寺の外を西側に回り込む必要がありますが、般若寺にお詣りされた際はぜひ正面からご覧になってください。

境内に点在する石造物

最後に境内に点在する石造物をいくつかご紹介します。

奈良 般若寺 笠塔婆

経堂のすぐ左手に位置する笠塔婆(重要文化財)。

十三重石宝塔を再建した伊行吉が父伊行末の一周忌にあたって、父母の供養のために弘長元(1261)年に建立しました。かつてはお寺南方の墓地にありましたが、廃仏毀釈に伴い現在地へ移されたそうです。

奈良 般若寺 燈籠

本堂前に立つ石燈籠は「般若寺型」、もしくは「文殊型」と呼ばれ、宝珠や火袋、蓮台の各所が装飾性に富んだ造りとなっています。

奈良 般若寺 石仏

本堂の周囲には西国三十三所観音石仏が安置されています。

元禄十五(1702)年に、山城国の寺島氏が自身の病気平癒の御礼として奉納したものです。

奈良 般若寺 平重衡供養塔

楼門のすぐ近くにひっそりと佇む平重衡の供養塔。

南都焼き討ちを決行した平重衡は一の谷の戦い(治承四年)で捕らえられ鎌倉に送られましたが、平家滅亡の後両寺衆徒の要求により南都へ護送され、その途上に木津川河畔にて斬首、般若寺の門前に晒されたといいます。

重衡のお墓と伝えるものは京都伏見区日野や木津川市安福寺、高野山などにあります。

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まとめ

季節によってアジサイやコスモスが境内を彩る「花の寺」として有名な般若寺。国宝楼門や高々と聳える十三重石宝塔などお花以外の見所も少なくありません。

公共交通機関でお越しの場合は、「近鉄奈良駅」・「JR奈良駅」から奈良交通バス「青山住宅前」行き、または「州見台八丁目」行きで「般若寺」下車、徒歩すぐです。お寺の前に数十台駐車できる駐車場がありますが、アジサイやコスモスの季節には多くの参拝客が訪れ、満車になることもありますので注意が必要です。

奈良 般若寺 コスモス

基本情報

  • 正式名称
    法性山般若寺
  • 所在地
    奈良県奈良市般若寺町221
  • 宗派
    真言律宗
  • 文化財指定
    国宝(楼門)
    重要文化財(十三重石宝塔、経蔵、銅造薬師如来立像、木造文殊菩薩騎獅像、笠塔婆、十三重石宝塔納入品 )
    県指定文化財(本堂)
  • アクセス
    近鉄奈良線「奈良駅」/「JR奈良駅」から奈良交通バス118系統「青山住宅前」または153系統「州見台八丁目」行き、「般若寺」下車、徒歩すぐ
  • 駐車場
    境内前にあり/数十台/500円
  • 拝観時間
     拝観時間
    3月~6月、9月~11月9時 〜 17時(最終受付16時30分)
    1月・2月・7月・8月・12月9時 ~ 16時
  • 拝観料
     通常時花期特別拝観料金
    (6月・10月)
    大人500円700円
    中高生200円300円
    小学生100円200円
  • 御朱印
    可/本堂にて
  • 所要時間
    約30分

 

参考
お寺発行の栞
般若寺ホームページ 最終アクセス2023年11月25日