【現光寺(京都府木津川市)】美しく、みずみずしい十一面観音

京都府木津川市 現光寺
京都府木津川市 現光寺
京都府木津川市 現光寺 十一面観音

京都府木津川市、加茂町の山裾に位置する現光寺。

ひっそりとした小さなお寺には美しい十一面観音がお祀りされています。

現光寺はこんなところ

創建に関しては明らかではありませんが、本尊の十一面観音の像内納入文書によると、一度廃絶したのち元禄十(1679)年に堂舎の荒廃を嘆いたうんしょうじつどうによって本堂を新たにして再興され、十一面観音にくわえて四天王立像と聖徳太子像を安置したと伝わります。

同年十月十五日に槙尾山西明寺(京都市)の僧によってぼんもうさつがおこなわれた際には、『海住山寺縁起』のことばがきの撰者であるしんけいほっしんのうも参席した。また、正徳二(1712)年の貞慶五百回忌に海住山寺本堂の開帳が行われた時には現光寺の僧侶が参詣するなど、現光寺は再興時から海住山寺と深い関りがあったことが伺われます。

運松実道は学問や仏教教学全般に明るく、興福寺(奈良市)や円照寺(奈良市)とつながりを持つなど交流関係も広かったようです。また、大智寺(木津川市)の復興を介して後水尾天皇と東福門院とも交流がありました。
(お寺発行のパンフレット・聖地南山城展の図録より)

ぼんもうさつ:梵網経を唱え、参加した僧侶が互いに日頃の振舞いを自省する行事

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京都府木津川市 現光寺
本堂前にある小さな石仏

現光寺は海住山寺の南東3kmほどの加茂町の町並みや恭仁京を見下ろす高台に立ち、開発が進む加茂駅周辺と比較すると、とても静かで落ち着いたところです。現在は無住のお寺ですが、以前から所縁のある海住山寺が管理しています。

本尊の十一面観音をはじめとする文化財が安置されている収蔵庫の拝観には10人以上での予約が必要ですが、春秋の特別公開期間中に限り予約不要で拝観することができます。

境内を散策する

境内は以下の通りです。

京都府木津川市 現光寺
出典:筆者作成

江戸時代に再興された趣のある本堂

京都府木津川市 現光寺

現光寺は無住ということもあって境内が荒れていた時期もあったようですが、現在は地元の方によって草が刈られるなど手入れが行き届いた綺麗な状態で管理されています。

京都府木津川市 現光寺

現光寺が再興された元禄十(1679)年に建立された入母屋造の本堂ですが、老朽化が激しいため内部は非公開となっています。

京都府木津川市 現光寺

本堂は方三間の簡素な造りのお堂であり、各面の中央間にのみ中備えとしてけんづかがあしらわれるなど装飾も最低限のものとなっています。

このように、あまり変哲のないお堂のように思われますが、本堂には二つ特徴があります。

京都府木津川市 現光寺

屋根の骨組みで一番高い部分をむな(青の円で囲った部分)といい、棟木と並行な面をひら、直角の面を妻といいます。

一般的には平側に入口がある平入りの建物が多いのですが、本堂は妻側に入口がある妻入りとなっている点が一つ目の特徴です。二つ目の特徴は面によって瓦の種類が異なる点であり、平側には桟瓦を葺く一方で、妻側には本瓦を葺き、二種の瓦が使い分けられています。

京都府木津川市 現光寺

本堂前には鐘楼がありますが、江戸期に鋳造された銅鐘は収蔵庫に収められています。

美しく、みずみずしい十一面観音

京都府木津川市 現光寺

収蔵庫の内部は桐の板材が貼り付けられており、木造のお堂のような雰囲気のなか間近で仏像を拝観することができます。

京都府木津川市 現光寺 十一面観音
お寺発行の写真
  • 十一面観音坐像
    木造(檜)漆箔、寄木造、像高74cm、鎌倉時代、重要文化財

本尊の十一面観音は比較的珍しい坐像ですが、同じく十一面観音を本尊とする海住山寺の存在や、観音を厚く信仰し、海住山寺を補陀落山になぞらえて再興した貞慶もしくはその後を継いだ覚真によって補陀落山に坐す十一面観音として造立された可能性が論じられています。本像と構造や作風が酷似した弥勒菩薩がじゅうざんの山頂近くに立つ金胎寺(宇治田原町)にお祀りされているほか、京田辺市の高ヶ峰中腹に立つ極楽寺にも作風が共通する阿弥陀如来が伝わるなど、同系統の作品がこの地域に一定の広がりを見せたことがうかがえます。

本像はその作風から慶派仏師の手によるものと考えられ、すらりとした手足に引き締まった腰、抑揚に富んだ衣のひだなど全体的に洗練された表現が特徴で、みずみずしく、美しい仕上がりを見せています。また、両目の周辺には補修が見られるものの、切れ長の目と赤い彩色の残る唇が印象的な顔からは生気が感じられます。

像内はうちぐりを施して、のみあとは丁寧にさらっているようで、納入品があった可能性もあるとか。台座と光背は江戸時代の後補ですが、頭部と上半身を中心に金箔が残り、頭上の仏面はすべて当初のものが残るなど状態が良い点も特筆に値します。

  • 四天王立像
    木造(檜)彩色、寄木造、像高62cm~65cm、鎌倉時代

十一面観音の四方を守護する四天王は、持国・増長・広目・多聞天の彩色をそれぞれ緑・赤・白・青とするいわゆる大仏殿様の四天王(鎌倉再建期の東大寺大仏殿に安置された四天王)です。表面の彩色や截金がよく残るほか、台座の岩や邪鬼も当初のものを残します。

四天王像は普段奈良国立博物館に寄託されており、特別公開時のみ収蔵庫に戻されます。

まとめ

全国的にも珍しい十一面観音の坐像を有する現光寺。拝観できる期間や条件は限られますが、一度お詣りして頂きたいお寺です。

最寄り駅の「JR加茂駅」からは徒歩15分ほど。お車でお越しの場合は、お寺には駐車場がないため少し離れたところ(新川沿いの空き地)に駐車することになります。

また、歩いて10分ほどのところには、同じく秋に特別公開が実施される旧燈明寺・御霊神社があります。

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京都府木津川市 現光寺
収蔵庫が作られる以前に宝物が収められていた蔵

基本情報

  • 正式名称
    覆養山現光寺
  • 所在地
    京都府木津川市加茂町北山ノ上9
  • 宗派
    真言宗智山派
  • 文化財指定
    重要文化財(木造十一面観音坐像)
  • 鉄道アクセス
    JR関西本線「加茂駅」から1.1km/徒歩約15分
  • 駐車場
    有り/新川沿いの空き地に駐車
  • 拝観時間
    要予約(拝観希望者が10名以上の場合に限り、海住山寺に電話予約することで対応して頂けます)
    春秋に実施される特別公開期間中は予約不要
  • 拝観料
    600円
  • 御朱印
    可/収蔵庫の拝観受付にて(特別公開期間中のみ)
  • 所要時間
    約10分
京都府木津川市 現光寺 駐車場
駐車場

参考
お寺発行のパンフレット
奈良国立博物館. 2018.『なら仏像館 名品図録』奈良国立博物館
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館