【伝香寺(奈良市)】「はだか地蔵尊」と「散り椿」で有名な筒井氏ゆかりのお寺

奈良県奈良市、ならまちの西の外れに位置するでんこう寺。

「はだか地蔵尊」と呼ばれる衣装を纏った地蔵菩薩や端正な造りの本堂、奈良三名椿の一つに数えられる「散り椿」がみどころの素敵なお寺です。

伝香寺はこんなところ

天平宝亀年間(770~780)に鑑真大和上の高弟たく律師によって、前身となる実円寺が創建されます。その後、天正十三(1585)年に若くして亡くなった筒井順慶の菩提を弔うために、順慶の母ほうしゅんが古額を改め伝香寺として再興しました。寺号には、香華が絶えないようにという芳秀尼の願いが込められているそうです。

ならまちの西のはずれに位置する小川町、通称「やすらぎの道」に面して立つ伝香寺。こじんまりとした境内には本堂と収蔵庫、順慶堂が立ち、五輪塔や石仏などの石造物が点在します。奈良三名椿の一つ「散り椿」が有名で、椿が花を咲かせる初春には多くの参拝客が訪れます。

3月12日と7月23日には特別に本堂が開扉され、7月23日に行われる地蔵会ではお地蔵さまの衣の着せ替えが行われます。

境内を散策する

境内は以下の通りです。

出典:筆者作成

たくさんの石仏と石造物

通りに面して立つ表門は簡素ながらも存在感があり、市内では貴重な桃山時代の建造物として県指定文化財に登録されています。

北門の受付で拝観のお願いをすると、はだか地蔵尊が安置されている収蔵庫を開扉いただけます。

境内には、4つのお堂とたくさんの石仏や石造物が所狭しと詰め込まれています。

門を入ってすぐ左手の小さな祠には、市守長者の弁財天がお祀りされています。

祠の横には二基の五輪塔が並び立ちます。

右手が筒井家の、左手前が筒井定次・秀子夫妻とその息子じゅんていの五輪塔です。左奥に位置するのは元の定次の五輪塔ですが、大坂冬の陣において豊臣家と内通した罪によって切腹させられたという背景から名前は刻まれていません。

木陰に立っていて見落としがちですが、右手には芳秀尼の墓塔がひっそりと立ちます。

東大寺(開山堂)の「糊こぼし椿」と白毫寺の「五色椿」と並んで、奈良三名椿の一つに数えられる「散り椿」。芳秀尼によって植樹された初代散り椿は既に枯死してしまい、現在花を咲かせるのは三代目(左)と四代目(右)。

椿は花ごとポトリと落ちるのが一般的ですが、伝香寺の散り椿は花びらが一枚ずつ散り落ちる様から、「もののふ椿」とも呼ばれています。

関連記事

奈良県奈良市、若草山・春日山の南に連なる高たか円まど山の西麓に位置する白びゃく毫ごう寺じ。多くのみほとけや奈良市街を見下ろすみごとな眺望、奈良三名椿のひとつ「五色椿」など見どころが多い素敵なお寺です。白毫寺は[…]

順慶堂には、真新しい順慶像が祀られています。

筒井順慶といえば、山崎の戦いにおいて秀吉と光秀のいずれに味方するか、その態度をはっきりさせなかったという逸話が有名です。しかし、この逸話は筒井家の復興を恐れた江戸幕府が流布したプロパガンダで、実際は順慶が洞ヶ峠に出陣することはなく大和郡山城の守備に徹していたとの説明書きがなされていました。

桃山様式の端正な本堂とこころみの釈迦如来

小規模ながら均整のとれた造りの本堂(重要文化財)は、天正十三(1585)年に建立されました。

本堂は方三間、本瓦葺寄棟造の建物で、正面三間は蔀戸、両側面は前方二間が引き戸、後方一間を塗壁とします。

組物は大斗肘木、中備えとして花肘木があしらわれており、虹梁の意匠などの一部を除きほぼ和様をあらわします。

内陣中央の須弥壇上に本尊である釈迦如来がお祀りされています。

  • 釈迦如来坐像
    木造(檜)漆箔・金泥・玉眼、寄木造、像高60.6cm、天正十三(1585)年、宗貞作、市指定文化財

作者の宗貞は方広寺大仏や金峯山寺蔵王権現像を手掛けた下御門仏師で、本像は方広寺大仏のこころみの像として作られたそうです。右手は施無畏印、左手は与願印を結び、蓮華座に結跏趺坐します。小柄ではありますが、滑らかな彫口や全体的に整った造形からは宗貞の仏師としての技量のほどが伺えます。

由留木ゆるぎ地蔵
片袖地蔵

本堂の前には大小2軀のお地蔵さまが鎮座し、由留木地蔵は永正十二(1515)年の造立です。

凛々しい顔立ちと可愛らしい衣装が印象的なはだか地蔵

収蔵庫の前にある五輪塔と飛雲見返り地蔵

「はだか地蔵」は本堂の西側に立つ収蔵庫にお祀りされており、以前は拝観に予約が必要でしたが現在はいつでも拝観いただけます。

収蔵庫にはお地蔵さま以外にもいくつかの文化財が安置されており、明るい照明のもと間近で拝観することができます。

  • 地蔵菩薩立像
    木造(檜)彩色、割矧造、像高97.3cm、安貞二(1228)年、重要文化財
  • 南無仏太子像
    木造(檜)彩色、寄木造、像高70.5cm、嘉元二(1304)年、舜慶作、県指定文化財
  • 弘法大師坐像
    木造彩色、像高40cmほど
  • 筒井家伝来仏舎利

元興福寺延寿院の本尊で、現在は客仏として伝香寺にお祀りされている地蔵菩薩。布帛の衣装を纏った衣装を彫刻しない裸形像でであることから「はだか地蔵尊」と呼ばれています。

像内には十一面観音立像などの納入品が確認されており、造象願文から春日社の本地仏であることが判明しました。このことから、「春日地蔵」とも呼ばれます。

非常に端正な顔立ちと凛とした佇まいが印象的で、右手に錫杖、左手に宝珠を持ちます。頭部と両手先のみが露出するやや大き目の衣装を身に着け、現在でも年に一度衣装が新調されます。

地蔵菩薩の左右には、島左近が奉納したと伝えられる南無仏太子像と弘法大師像が安置されています。石田三成の家臣として有名な島左近ですが、大和国出身で当初は筒井家の家臣でした。

まとめ

珍しい裸形の地蔵尊や端正な本堂、様々な石造物が拝観できる伝香寺。駅からのアクセスも良好で気軽に立ち寄れるお寺ですので、奈良市内を観光される際にはぜひ立ち寄ってみてください。椿の時期(例年3月上旬~4月上旬)や地蔵会(7月23日)の際にお詣りされるのがおすすめです。

最寄り駅の「近鉄奈良駅」・「JR奈良駅」からはともに徒歩5分ほどです。お車でお越しの場合は、境内横にある駐車場をご利用ください。

お寺発行の栞とポップなデザインが可愛い境内図

基本情報

  • 正式名称
    伝香寺(山号なし)
  • 所在地
    奈良県奈良市小川町24
  • 宗派
    律宗
  • 文化財指定
    重要文化財(本堂、木造地蔵菩薩立像)
    県指定文化財(表門、木造南無仏太子像)
    市指定文化財(木造釈迦如来坐像、絹本著色筒井順慶像)
  • アクセス
    1. 近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から400m/徒歩約5分
    2. JR関西本線「奈良駅」から650m/徒歩約8分
  • 駐車場
    境内横にあり/20台/1時間300円
  • 拝観時間
    9時~17時
  • 拝観料
    300円(椿の時期のみ400円)
    例年の開花時期は3月上旬~4月上旬
  • 御朱印
    可/受付にて
  • 所要時間
    約15分
駐車場入口

参考
お寺発行の栞