京都府木津川市、木津川の畔に佇む大智寺。
泉大橋の橋柱から彫られたと伝わる優美な文殊菩薩がお祀りされています。
大智寺はこんなところ
大智寺のすぐ北に架かる泉大橋は行基によって架けられたのが始まりとされ、『橋柱寺縁起』には以下のような記述が見られます。
行基が架橋した初代泉大橋は正応元（1288）年の洪水で流されてしまいますが、川の中に残された橋柱のうちの一本が時々光を放つようになりました。その橋柱から文殊菩薩を彫り出してご本尊とし、叡尊の高弟であった慈真和尚信空によって大智寺の前身となる橋柱寺が創建されたと伝わります。
その後寺勢は次第に衰退しますが、江戸時代に入ると後水尾院や東福門院（後水尾天皇の妃）より本堂再建のための費用が下賜されます。寛文九（1669）年には本寂和尚が中興し、現在の寺号である橋柱山大智寺へと改められました。
叡尊：真言律宗を興し、西大寺を再興した鎌倉時代の僧。
京都府の南端に位置する木津川市は古くから南都との関りが深く、木津川流域には多くの古刹が点在します。境内には本堂や庫裏、鐘楼が立ち、本堂にはたくさんの仏像が安置されています。
本堂内の拝観には事前予約が必要ですが、春秋に実施される特別公開期間中であれば予約不要で拝観することができます。
境内を散策する
境内は以下の通りです。
江戸時代に再興された境内
表門は本瓦葺、切妻造の薬医門であり、屋根の上にはユニークな仙人の飾り瓦があしらわれています。
門前の石碑に刻まれている通り、西大寺の慈真和尚によって創建された大智寺は現在まで西大寺の末寺です。
背面には鬼の飾り瓦を戴きます。
境内の中心に本堂が西面して立ち、その北側に庫裏を配し、二棟のお堂を渡り廊下で結びます。
鐘楼は江戸時代に再建されたものですが、当時の銅鐘は太平洋戦争で徴収されたため、昭和期に現在の梵鐘が再鋳されました。
庫裏の屋根上には狛犬の飾り瓦があしらわれています。
橋柱から彫られた？文殊菩薩
本堂は方三間、本瓦葺、入母屋造のお堂であり、前方はすべて蔀戸とし、側面は前方二間を引き戸、後方一間を塗壁とします。
軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木となっており、組物は簡素な舟肘木、前面には一間の向拝が附されています。
厨子内にご本尊である文殊菩薩と十一面観音がお祀りされており、すぐ近くまで寄ってじっくりと拝観することが可能です。また、後陣のガラスケースには多数の宝物が安置されています。
- 文殊菩薩騎獅像
木造（檜）彩色・金泥・截金・玉眼、寄木造、像高66.2cm、総高169.5cm、鎌倉時代、重要文化財
行基建立時の橋柱を御衣木（仏像をつくるための木材）として、鎌倉時代に造立されたと伝わります。実際に橋柱を御衣木としたかは不明ですが、その作風は鎌倉時代のものとして矛盾しません。鎌倉時代の南都では文殊信仰が盛んであり、文殊菩薩の化身とされた行基に対する信仰とも重なりながら、叡尊や忍性ら西大寺を拠点とする律宗僧により担われていました。本像の造立の背景にも、慈真の行基・文殊信仰があったのでしょう。
右手に宝剣、左手に蓮茎を持ち、左足を踏み下げて獅子に騎するその姿は、安倍文殊院（奈良県桜井市）の快慶作文殊菩薩とそっくりであり、快慶作という伝承にはこうした類似点も影響していると考えられます。
X線CT調査の結果、数点の巻物と厨子入の文殊菩薩坐像が納入されていることが確認されており、将来的にこの納入品から本像の縁起が明らかになるかもしれません。
- 十一面観音立像
木造（檜）彩色、一木造、像高約109cm、平安時代、重要文化財
細身の体躯に抑揚が穏やかな衣を纏い、内刳は施さず、腕釧までを一木から彫り出すなど要所に古様を留めます。こうした特徴から大智寺創建以前の作とみられ、他の寺院より伝来したと考えられます。
繊細な瓔珞（装身具）を身につけ、左手に水瓶を持ち、右手は逆手来迎印を結びます。ややぶっきらぼうなようにも、澄ましたようにも感じられる穏やかな相貌が魅力的な仏像です。
本堂にはご紹介した文殊菩薩と十一面観音のほかにも、下記のような文化財が安置されていますので、ぜひじっくりとご覧ください。
- 木造本寂和尚椅像
木造彩色、江戸時代 - 扁額
黄檗山萬福寺初代隠元禅師によって書かれたもの - 宝篋印塔
まとめ
不思議な縁起が伝わる文殊菩薩やお寺の歴史より古い穏やかな佇まいの十一面観音が興味深い大智寺。同じく泉大橋に所縁がある川向かいの泉橋寺と共に訪れて、地域の歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
最寄り駅の「JR木津駅」からは徒歩10分ほどとアクセスも良好です。
基本情報
- 正式名称
橋柱山大智寺 - 所在地
京都府木津川市木津雲村４２−１ - 宗派
真言律宗 - 指定文化財
国重要文化財（木造文殊菩薩騎獅像、木造十一面観音立像）
府登録有形文化財（本堂、庫裡、鐘楼、山門、石造十三重塔） - 鉄道アクセス
関西本線「木津駅」から750m／徒歩約10分 - 駐車場
境内横にあり／約5台／無料 - 拝観時間
要予約（春秋の特別公開時は予約不要） - 拝観料
500円 - ご朱印
可／庫裡にて - 所要時間
約15分
参考
お寺発行の栞
奈良国立博物館発行の調査資料
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館
大智寺のホームページ 最終アクセス2025年1月13日