京都府木津川市、木津川の畔に立つ安福寺。
平清盛の五男である平重衡の引導仏と伝わる阿弥陀如来がご本尊としてお祀りされています。
安福寺はこんなところ
寺伝によると、恵心僧都を開基として長保三(1001)年に創建されたと伝わります。その後の詳しい変遷は不明ですが、お寺に伝わる平重衡にまつわる逸話をご紹介します。
父清盛の命を受けた重衡は治承四(1181)年に興福寺や東大寺をはじめとする南都を焼き討ちにしました。重衡は一の谷の戦い(治承四年)にて捕らえられ、鎌倉へ送られました。平家滅亡後に両寺の衆徒の要求によって南都へ護送され、その途上の木津川の河畔にて斬首されました。その際に当寺のご本尊である阿弥陀如来が運び出され、その手にかけられた紐を重衡が持ち、「浄土に迎えられますように」と念仏を唱えながら斬首されたそうです。
平重衡(1157年~1185年):平清盛の五男として生まれ、武勇に優れ、牡丹の花に例えられるほど華やかで気品のある武将であった
安福寺は木津川の畔、JR木津駅から徒歩10分ほどのところに位置します。こじんまりとした境内には本堂と庚申堂、庫裏が立ち、境内隅には平重衡の供養塔が鎮座します。普段は一般公開されていませんが、重衡の引導仏と伝わる阿弥陀如来がご本尊としてお祀りされています。
本記事では、特別公開期間中にお詣りした際の写真を交えながら安福寺について詳しくご紹介します。
境内を散策する
平重衡の引導仏がお祀りされる哀堂
静かな住宅街に溶け込むように立つ安福寺。境内には5本の桜の木が植えられており、春には桜と表門、白壁が相まって美しい景観を織りなします。
コンパクトで落ち着きのある境内には本堂と庚申堂、庫裏が立ち、当日は本堂だけでなく庚申堂も開扉されていました。
境内隅にひっそりと佇む供養塔は、平重衡が亡くなった数百年後にその死を悼んだ村人たちによって建立されたと伝わります。
現在でも重衡の命日である7月23日の重衡忌には多くの参拝客が訪れるそうです。
庚申とは六十日に一度めぐってくる庚申の日を意味しており、この日の夜に眠ると人間の体の中から三尸の虫が抜け出して宿主の罪悪を帝釈天に報告することで人間の寿命を縮めるといわれています。しかし、三尸の虫は人間が寝ている間にしか体から抜け出せません。そこで、三尸の虫が体から抜け出すのを防ぐために庚申の夜は眠らずに過ごすという風習が行われるようになり、これを庚申待ちと呼ぶようになりました。
いつのころからか庚申待ちには青面庚申金剛明王を本尊として拝むようになり、安福寺の庚申堂にも青面庚申金剛明王がお祀りされています。
小振りな本堂は華頭窓があしらわれるなど品のある佇まいです。
内陣と外陣を区切る庇には「哀堂」と記された扁額が掛けられています。重衡の死を哀れんだ村人によって本堂が哀堂と呼ばれるようになったことがその由来です。
外陣の四隅は色鮮やかな四天王が守護します。
ご本尊の阿弥陀如来は内陣中央にある立派な厨子にお祀りされており、明るい照明の下すぐ近くまで寄ってよく拝観することができました。
- 阿弥陀如来坐像
木造(檜)彩色、寄木造、像高56.1cm、平安時代後期、市指定文化財
阿弥陀如来は蓮華座に結跏趺坐し、柔和で穏やかな表情やゆったりとした丸みのある尊容、漆箔による丁寧な仕上げといった特徴は平安時代後期の作風をよく表します。肉髻や脚部の一部は後補ですが、脆弱な手先は当初のものがよく残り、造立当時から来迎印を結ぶ阿弥陀如来であったことがわかります。
阿弥陀如来の脇侍として法然上人と善導大師がお祀りされています。法然上人と善導大師は混同しやすいかと思いますが、下半身が金色に染まっているのが善導大師です。
「不成の柿」と「首洗池」
境内のすぐ西側を通過するJR奈良線の反対側には、「不成の柿」と呼ばれる柿の木と重衡の首を洗ったと伝わる「首洗池」と称する池があります。
この辺りに住む村人がこの世の名残に柿を食べた重衡を哀れに思い、その柿の種を植えたところ、実の成らない柿の木になったそうです。現在の柿の木は代替わりしたもので、秋になるとたくさんの小さな実をつけます。
首洗池は既に無くなっていましたが、柿の木のたもとにあるこちらの窪みが池の名残でしょうか。
まとめ
平重衡の引導仏と伝わる阿弥陀如来がご本尊としてお祀りされる安福寺。奈良市出身の筆者は平重衡にあまりよい印象を抱いていませんでしたが、安福寺への参詣を契機に彼のことを詳しく調べてみると、少し印象が変化しました。
普段は本堂内を拝観することはできませんが、春と秋に実施される木津川市の特別公開期間中に一般公開されることがありますので、拝観をご希望の方は木津川市観光協会の公式HPをチェックされることをおすすめします。
最寄り駅の「木津駅」から徒歩10分ほどとアクセスが良好なため、南山城のお寺巡りをする際に気軽にお立ち寄りいただけます。
基本情報
- 正式名称
心道山安福寺 - 所在地
京都府木津川市木津宮ノ浦274 - 宗派
西山浄土宗 - 指定文化財
市指定文化財(木造阿弥陀如来坐像) - アクセス
JR関西本線「木津駅」から600m/徒歩約6分
木津駅にはすべての列車が停車します - 駐車場
境内前にあり/約5台/無料 - 拝観時間
春秋の特別公開時のみ拝観可能 - 拝観料
500円 - 御朱印
可/庫裏にて - 所要時間
約15分
参考
お寺発行の栞
木津川市公式HP 最終アクセス2024年12月10日